伝統技術に新しいスタイルを取り入れて 誰もが自分らしく働ける！

タタッ、タタタタッ、タタタタターーー。

リズミカルに、時にはゆっくりと重々しく。まるで、体の一部のように、大山さんは手際よくミシンを操っていた。

祖母の働く姿に憧れ、縫製業の道へ

服の「お直し」を専門に縫製業を営む大山さん。縫製業を営んでいた祖母を間近に見て育ち、時には傍でチクチクと縫い物をすることもあったという。日常的に見ていた祖母の働く姿はカッコよく、大山さんは祖母と同じ道を歩む。被服科のある高校に進学し、専門学校へ。そして、福岡で自社ブランドを展開するアパレルメーカーに就職。

「最初に勤めたアパレル会社では、パターンを一から起こしたり、工場に指示を出したりしていました。当時はそれなりに楽しかったですよ。それから結婚を機に熊本に戻り、子育てをしながらブライダル衣装を扱う会社に勤めました。もともと衣装はやりたかったので、やりがいがありました。二人目を出産して２年ほど子育てに専念し、仕事に復帰しようと次を探しているときに、たまたま『お直し』に出逢いました。」

思いをカタチに、そしてつないでゆく “お直しの心”と“技術”

「既成服とちがって、お直しはそれぞれのお客様の体型や要望に合わせる仕事なので、正解がないんです。縫製の技術や知恵を使って、いかにぴったりに、いかに要望にお応えできるか・・・。
お直しを始めた頃は休みの日に先輩のところに行って、教えてもらったりしてましたね。」

同じ縫製業でも、既成服の製造、ブライダル衣装は、作る仕事。お直しは、出来上がっているものの糸を解き、崩して組み立てる仕事。さらに、もう一つ、大きな違いがあった。

「お直しの仕事は、体型や流行りに合わせるだけではないんです。持ち込まれる服には、その服にまつわるエピソードや大切な思いが詰まっています。それらも含めて衣服の一部ととらえ、新たなカタチにして、次につなぐ仕事なんです。
おじいちゃんが着ていたスーツをお直しして成人式で着たい、とお持ちになる若い方などもいらっしゃいます。体型に合わせたデザインや機能性だけではない、目に見えないものを丁寧に紡ぐ“お直しの心”。その存在意義を大切に残していきたいと思っています。」

祖母に憧れを抱き、縫製の道一筋。さまざまな経験を培い、2018年にお直しの専門店として独立。「Sewing Society Together」〜思いをつなぎ、技術をつなぎ、社会をつなぐ〜をコンセプトに現在、県内5店舗（熊本市、宇城市、大津町、錦町）、福岡1店舗、さらに玉名市や福岡に工場も構え展開している。今では、県外からの依頼も多いという。

70、80代のベテラン職人にリスペクト 大切な日本の伝統技術を次へとつなぐ

大山さんの話を聞いていて感じたのは、幼い頃に見ていた祖母の存在の大きさ。日常にあたりまえに聴こえていたミシンのリズム、そして、丁寧な針仕事。その脳裏にある祖母の姿を、ベテラン職人と重ね合わせているように思えた。

「ベテランの方に会って思うのは、みんな楽しそうに仕事をされている、70、80になってもミシンをやっている姿はカッコいいと思うんですよ。一つのことを長く続けてこられてきた職人です。縫製は高齢化が進んでいる業種。日本は伝統文化や技術がもともと根付いている国だと思うので、そういった職人の技術や思いを若い人たちにも知ってもらい、興味を持って働いてもらいたいと思います。」

縫製業は、50、60代がメインの中、大山さんの会社は、30、 40代と業界としては若い世代が多くなってきたという。

年齢も性別も障害も、そして国境も超えて 縫製の仕事で社会をつなぎ、世界もつなぐ

大山さんは、娘さんのある一言ではっとしたという。

「あるとき、中学３年の娘が、『ママの仕事って、どこの国でもできるよね』と言ったんです。その言葉にはっとさせられました。そうなんです。縫製は、年齢も、性別も、障害も、国も関係なく、誰もができる仕事なんですよ。」

大山さんは、海外支援として、貧困問題を抱える地域で教育福祉支援を行う国際NGOと連携し、日本の伝統文化を伝える取り組みも行っている。

「言葉が通じなくても、見よう見まねで誰もができるようになるんです。これは、縫製技術の持つ素晴らしい強みだと感じましたね。」

現在、VRを活用した多言語のeラーニング育成プログラムを導入し、日本の縫製技術者が遠く離れた海外の現地の人たちに指導やアドバイスを行う海外支援事業を展開している。これにより、技術者を育成し、現地に新たな事業や雇用をつくり、貧困改善を目指したいと語る。

娘くれた、私への正解 次の世代に伝えることが生きる源

大山さんのプライベートについて聞いてみた。

「私の自宅の隣に実家、道挟んだ向かいに弟家族の家があり、3家族が近くで暮らしているので、いつも大家族のように賑やか。それぞれの誕生日は、毎回みんなでお祝いしています。子どもたちは、まるで５人兄弟のよう。私も５人の子育てしているような感じで、忙しい仕事をこなしながら日々奮闘してきました。」

「私の生き方として、根本にあるのは多分好きなことを仕事にする、ということ。これはかなり重要だと思っています。人生って嫌なこととかきついこと、辛いことって必ずあると思うんですけど、それをどう乗り越えるかっていうのは人それぞれですよね。自分が好きなことや大切にしていることであれば、その辛さを考えることが少なくなると思うんです。なので、一貫して子育てしながらも、仕事を好きであることは大事にしています。」

寝ている時間よりもミシンをやっている時間の方が長いときもあるという大山さん。

「あとは、子どもたちがすごく見てくれてる。それは大きなことですね。
娘が、将来この仕事をしたいって言ってくれたんです。わたしがやってきたこと、今やっていることに正解をくれた。そう思いました。
私の中で、これからの子どもたちに何を残せるのか、ということはすごく大事にしていて、私はそのための土台をつくりたいと思っています。この業界もそうだし、この分野において、次世代の子どもたちに伝え、残していく。多分それが、私の生きる源になってますね。」

場所や時間に捉われず 誰もが働きやすい環境を

大山さんは、子育て中の女性でも働きやすいよう、店舗のDX化を図り、接客に遠隔接客システム導入して受付業務を省人化。また、夕方以降は店舗を無人化し、遠隔接客システムのみの対応にチャレンジ。スタッフが在宅でも働ける環境を整え、雇用や店舗を増やし、事業拡大を行なっている。

また、働く人の多様性や得意性を重視。それぞれにあった業務や作業内容、環境を見直したり、障害を持った方など作業に専念できる環境の整備などにも取り組んでいる。

「私は今、熊本の本社を拠点にしていますが、福岡は好きな地域ですね。ぎゅっと集まっていて働きやすいし、刺激もあるので。働く場所は、人それぞれに働きやすい環境がある店舗を選んでもらっていいと思っています。実際、遠隔接客を行なっているのは大阪在住のスタッフで、自宅でのリモートワークです。」

持続可能な未来を目指して 「みんな楽しみながら幸せに」

「お直しの縫製技術って、身に付くものだと思うので、縫製技術がなくても、人の思いをカタチにしたい人、本気で手に職を就けたいと思う人にぴったりの仕事だと思います。もともと縫製技術のある人よりも、固定概念にとらわれず、伸びる人もいるんですよ。やらされてやる仕事ではなく、やってて楽しい仕事、と思える方に来ていただきたいですね。」

全くの未経験者であったとしても、自社の技術訓練で技術を身に付けることができるという。

「縫製の技術の仕事だけでなく、新しく展開するプロダクトの運営に携わる仕事や、海外支援活動の仕事をやってみたい方もぜひ、来てもらいたいですね。海外支援では、ラオス、インド、モンゴルに関わっています。また、インドの現地に学校を作る計画があり、技術支援担当として弊社が入る予定です。服、縫製を通して、みんなが楽しく幸せになれる世界を目指しています。そんな思いを共有できる仲間と一緒に仕事ができるといいですね。」